マルティナは海 ★★★☆☆

マルティナは海 [DVD]

マルティナは海 [DVD]


監督 ビガス・ルナ
出演 レオノル・ワトリング、ジョルディ・モリャ、エドゥアルド・フェルナンドほか


ビガス・ルナによる愛の物語。
小さな町に赴任してきた文学の教師ウリセスが下宿先の娘マルティナと恋に落ち、やがて結婚するという典型的な恋の物語なのだが、彼らの愛の間には常に「ユリシーズ」が介在している。
というのは、マルティナはウリセスが「ユリシーズ」を朗読することをなによりも愛し、ウリセスはいつでも彼女の望みに応じていたのである。
ところがこの恋はあえなく破綻してしまう。
結婚して子供も生まれ、幸せな前途が約束されているかのように思えたふたりだったのだが、ウリセスが突然マルティナに愛を感じなくなってしまうのである。
それは彼が文学の授業の時に黒板に書く言葉に集約されている。

「愛すると愛さないの間のことは、誰もわからない」

ウリセスはなぜ自分の愛が冷めたのかまったくわからないまま、自分の愛が消えたということだけ知っているのだ。

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これは要するにユリシーズの物語なのだなと思う。
ユリシーズは長い旅に出掛け、戦争をしたり、女神の愛人になったりして、ようやっとのことで妻イタケの元に戻ってくる。
つまりそれがウリセスの姿。
彼はある日消えていなくなってしまい、マルティナはイタケのように彼を待つことは出来ずに再婚したが、彼女の元にウリセスは帰って来る。

この映画には美しい場面がたくさんある。
少女のようだったマルティナがウリセスとの愛を経て大人の女性に成長していくところなどはうっとりするほど魅惑的だし、ウリセスが帰ってきたときにふたりが隠れて逢瀬を重ねるところなども御伽噺とオーバーラップしてイメージ的に二重の美しさがある。
しかし率直に言うと、あまりに人物の描き方が表層的という感じがする。
というのは、マルティナとウリセスのセックス場面に大きな意味を持たせ、それをふたりの第一のコミュニケーションとしたことで、その場面に時間を割きすぎていることから、ほかの箇所がおろそかになっているような気がするのだ。
水の中でのびのびと四肢を伸ばすマルティナのイメージがあまりにも幻惑的なため、こんなにあっさりした映画に仕上がっていることが残念だが、逆に言えば、ここまであっさりとした描き方でありながらも最後までイメージを損なわずに見せることが出来る力のある作品ということが言えるだろうか。