私たちがやったこと

Ura2005-01-06


レベッカ・ブラウン著「私たちがやったこと」読了。
これは7つの短編が収録された短編集なのだが、わたしがいちばん面白い(というか興味深い)と思ったのは、一番目の物語、「The Joy of Marriage」。
この作品中では新婚カップルのハネムーンの様子が描かれるのが、それが「ハネムーン」という言葉が喚起させるすべてのイメージを裏切るものだ。
つまり、カップルは小さなコテージでこれからハネムーンを過ごそうとするのだが、その矢先に新郎の友人ふたりがやってくる。そしてそれを皮切りにどんどん人が押し寄せ、やがてつい先ごろまでいた結婚式や披露宴のような様相にまでなってしまう。
その上、すぐにでも新郎と抱き合いたいという新婦の思いとは裏腹に、新郎は決して彼女のその願いをかなえてはくれない。
ディナーのテーブルの下で新郎の手を握ろうとすれば、彼は突如立ち上がり、この結婚がいかにすばらしいものかということを延々と述べた後に乾杯の音頭をとったりするのだ。
新婦がこのどんちゃん騒ぎに我慢するのは一重に、それが終わりさえすれば自分は再び新郎とふたりきりになり、ベッドの中で抱き合えると思っているからなのだが、それが実現するどころか、この「ハネムーン」は何ヶ月も続いていく。
そして何ヶ月もの間、新郎と会えないままに時間が経ち、やがて新婦は新郎の顔も肌の感触もすっかり忘れてしまう。しかしそれでもこれは彼らの結婚を祝うという目的をもった宴なのだが。


わたしがこの短編を面白いと思うのはおそらく、この作品の雰囲気がなんとなくマンディアルグのある短編に似ているからだろうと思う。(タイトルは失念)
マンディアルグのそれでは、物語はもっとエキゾティックで、レベッカ・ブラウンの作品のような単なるブラックな韜晦では終わらない。そこには暴力があり、エロスに満ちており、ぞくぞくするような不吉な予感と魅惑的な危険の香りがする。
しかし、ブラウンのこの短編も全然悪くない。
そもそも結婚したばかりのカップルが同じ家におりながら、まったく会うことなく数ヶ月を過ごしてしまうというイメージがすごい。
そしてほんとうに相手に対して欲望(あるいは愛情)を抱いているのは新婦のほうだけであり、新郎は故意にか偶然にか、彼女の欲望をことごとく退けてしまうのだ。
考えてみると、結婚などというのはもしかしたらそういうものかもしれないと思い当たるふしもあり、深読みしてしまいそうだ。


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