舞台より素敵な生活  ★★★★★

Ura2005-01-11


監督 マイケル・カレスニコ
出演 ケネス・ブラナーロビン・ライト・ペンジャレッド・ハリスほか


劇作家のピーター(ケネス・ブラナー)は新作戯曲の上演を前にして、スランプに陥っていた。
子供のダンス教室の先生をしている妻のメラニーロビン・ライト・ペン)は、赤ちゃんが欲しくてたまらないが、“大きな子供”のような性格のピーターは、自分が父親になることなど想像もできない。
かつての売れっ子劇作家もここしばらく失敗作が続き、新作の仕事に集中したいのだが、執筆のための家庭環境は悪くなるばかり。しつこく子作りを迫る妻ばかりか、とんちんかんな事を言って家庭をかき回す痴呆症ぎみの義理の母(リン・レッドグレーヴ)の存在も悩みの種。その上、毎晩、眠りにつくころになると隣家の庭先で犬が吠える。

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ものすごく面白かった。
そもそもわたしはケネス・ブラナーという俳優がだいすきで、彼の映画はなるべく観るようにしているのだが、彼の口からいかにもインテリ然とした屁理屈や毒舌が飛び出してくると、それだけでもう楽しくて仕方ない。そのくせどこか子供みたいなところがある彼はなんとチャーミングなことだろう。多分、これには彼のイングリッシュ・アクセントも多分に影響しているのだろうとは思うのだけれど。
本作でも彼の魅力はいかんなく発揮されている。
つまり、彼が演じるのはスランプに陥った劇作家なのだが、自分の名を騙るストーカーに対しても激怒するどころか、眠れない夜にはついつい話し込んでしまうところなど、いかにも彼のキャラクターを忍ばせるあたり、面白いではないか。
大体、この映画は登場人物との間でポンポンとリズム良く交わされる会話が楽しいのだ。
ケネス・ブラナー演じるピーターはいつも汚い言葉とクレバーな皮肉を織り交ぜたような台詞を吐くのだが、始終子供を欲しがっている妻にもその調子で応じるばかりか、隣に引っ越してきたばかりの10歳(だっけかな?)のエイミーにまで同じように接するのだ。
ピーターとエイミーがはじめてままごとをするところなどはほんとうに見もので、いちいち「このゲーム(ままごと)の設定は何か?」などとエイミーに対して尋ねる彼の姿は滑稽を通り越してなにやら微笑ましい。

おそらくこの映画がこれほど面白い作品に仕上がっているのは第一に、よくありがちな所謂「キッズ・ムービー」に堕しなかったことにあるのではないかと思う。
勿論、ピーターとエイミーがやがてお互いに心を通わせるのは作中大きな山場になっているのだが、それがこの映画の見せ場というわけではないのだ。
そしてエイミーの脚が悪いことも決して必要以上の好奇心と興味を引かないよう、注意深く描かれているのがすばらしいと思う。
つまり、これは飽くまでも下世話なセンチメンタリズムなどとは一線を画した映画なのだ。それこそがわたしのもっとも評価する点だ。

そしてエイミーとピーターが徐々に仲良くなっていくのと平行して、ピーターが手がけている舞台が徐々に出来上がっていくのも面白い。
この映画はスランプの渦中にあるピーターが自ら言うように、「現実と虚構が混ざり合った」状態を描いたものなのだ。つまりわたし達はピーターが自分の人生を徐々に虚構に投影していく過程を見ることが出来るのだ。
その意味でこの映画には二つの面白さがあるともいえるのではないだろうか。



それと蛇足だが、「舞台より素敵な生活」という邦題はちょっと酷いんじゃないかと思う。
原題が「How to Kill Your Neighbor's Dog」なのだから、「隣人の犬を殺す方法」とかでいいのじゃないかと思う。でも勿論、そんなタイトルだったら、日本では人が入らないんだろうな、と理解は出来るんですが。
とても良い原題だと思うんだけどなあ。