Jersey Girl(世界でいちばんパパが好き) ★★☆☆☆

Ura2005-04-15



NYの音楽業界でばりばりのやり手宣伝マンとして活躍しているオリー・トリンキー(ベン・アフレック)。
ある日、最愛の妻(ジェニファー・ロペス)が出産直後に死んでしまう。悲しみを紛らわすかのように生まれたばかりの娘もそっちのけで仕事に没頭するが、フレッシュ・プリンス(ウィル・スミス)のプロモーションでヘマをやらかし、クビになってしまう。
それを機に、実家のあるニュージャージーに戻り、いい父になろうと決意するオリー。
それから七年後・・・
真面目に父と同じ町の肉体労働をこなしているオリーだが、相変わらずNYに戻る夢は捨てておらず、機会があればと、せっせと面接を受け続ける。

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ケヴィン・スミスの新作とは思えないほど、一般的趣味に迎合した作品。
はっきり言って、ケヴィン・スミスが何を思ってこんな映画を撮ることにしたのか不明、と思っていたら、この作品は亡き父親に捧げられたものらしい。
しかし、それにしたって・・・と納得いかないのは、これまでのスミス作品があまりにも本作とかけ離れた面白さに満ちているからだ。
勿論、本作でも随所に普段のケヴィン・スミスらしいおかしさは盛り込まれている。
わたしが個人的にいちばんおかしかったのは、ベン・アフレックの父親を演じるジョージ・カーリン。
彼はなにをしていても、なんとなくコントにしか見えない不自然さがあって、あれ、多分わざとやってるんだよねえ、と何度も思わずにはいられなかった。
でも、この人がいちばん、普段のケヴィン・スミスらしさを表現していたと思う。
それから、随所に出てくる、ケヴィン・スミス映画常連の俳優たち。
ベン・アフレックの面接先で面接官がマット・デイモンと名前を失念したけど、これまたスミス映画によく出てくる俳優。
この二人がアフレックの目の前で、面接官のくせに賭けに興じたり、賭けの結果が出るや、バカみたいにはしゃぎ始めたりするのだが、この辺はものすごく面白い。ケヴィン・スミスの面白さって、要するにこういう身内間でのバカ騒ぎなんだよなあ、と再確認。
それ以外ではリブ・タイラーの設定とかが良かった。
なにしろ、ビデオ屋で働きながら、「ポルノ映画と男性の性欲」みたいなテーマの論文を書いている大学院生という設定なのだ。あまりにも荒唐無稽なのに、リブ・タイラーのイノセントな魅力とアンバランスな雰囲気を作っていてよかった。


このように、この映画は、細部は割に楽しめるのだが、結果的にそれが全体として生きていない。
その最大の理由というのは、監督がこの映画のテーマを絞りきれてないところにあるのだと思う。
全体としては、子育てを通して成長していく父親というテーマを挙げながら、相変わらずベン・アフレックの大根っぷりは健在だし、時折いつものケヴィン・スミス調に脱線しようとする空気が全篇にありありと見えるのが興ざめ。
テーマ自体は平凡でくだらないが、一旦そう決めたら最後まで徹底するのが映画監督してのいちばんの仕事ではないか。それはトリュフォーも言っている通り、映画監督の仕事というのは、いかに多くのことを捨てられるか、ということに尽きるのだ。

まあ、それはさておき、わたしとしてはケヴィン・スミスがこんな大衆受けを狙った作品を取るのは心外で残念だった。
そしてその出来も大して良くない。
早く、「チェイシング・エイミー」や「ドグマ」みたいな素敵オタク映画を作る監督に戻ってほしいと願うばかりです。

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