チャーリーとチョコレート工場 ★★★★☆

Ura2005-09-27


監督  ティム・バートン
出演  ジョニー・デップヘレナ・ボナム・カーターフレディ・ハイモアクリストファー・リー


ジョニー・デップ扮する怪しいチョコレート工場主ウィリー・ウォンカが、黄金のチケット入りのチョコレートを買った子供5人を工場見学にご招待。貧しいが純真な少年チャーリーはじめチケットを手に入れた5人の少年少女たちは、チョコレート工場に招かれて奇妙な体験をしていく。

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すごかった。
なにがすごいって、あの懲りようがすごい。
毒の効いたディズニーランド然としたウォンカのチョコレート工場は言うまでもなく、ゴチック様式を取り入れたようなボロ屋のチャーリーの家。
そして、わたしがいちばん舌を巻いたのは、実はその人物人物の「歯」なのだった。
映画を観る前、いちばん苦労したのは、ウォンカの歯だった、みたいなことをデップがどこかのインタビューで発言するのを読んでいたので、ウォンカが登場するなり、その歯につい着目してしまったのだが、彼以外の人物もまた、ウォンカと同様にしっかり「歯」によって演出されていたのだった。
つまり、ウォンカは幼い頃から歯医者である父親によって厳しい食制限と歯科矯正によって、美しい歯を維持するように教育されてきたのだが、その甲斐あってか、長じたウォンカの歯は殆ど完璧である。
その形といい、大きさといい、人工的としか言いようのない奇妙な白さといい。
それに比べて、チャーリーの家族は、母親であるヘレナ・ボナム・カーターでさえ、薄茶色の汚れた歯をしているのが対照的だった。


こんな「歯」一つにも心血を注いでしまうティム・バートンには脱帽するとしか言いようがないのだが、それ以外にも勿論見所はたくさんある。
まずは、チョコレート工場を訪れた子供たちの前にウォンカが初めて登場する場面。
突然赤い(確か赤かった)カーテンが開き、その奥からいくつもの人形が姿を現す。
おお、すごい It’s a Small World だよ!とすぐに思いつくほど、ディズニーランドのそれに酷似した、歌い踊る人形達。
しかし、よく見ると人形の肌が微妙にまだらになっている。
なんだ、こりゃ、などと思いつつ見ていると、エネルギー過剰のためにオーバーヒートした人形達が次々と火を噴き始め、火だるまになっていく。
最終的には、キャッチーでラブリーな歌を歌っていた愛らしい人形達の肌は溶け、目玉は飛び出し、見るも悲惨で恐ろしい情景となってしまった。
つまり、これがウォンカのチョコレート工場の縮図なのである。

それと忘れてならないのが、ウンパ・ルンパの存在だ。
ウンパ・ルンパというのは、チョコレート工場の労働者たちなのだが、全員が小人で且つまったく同じ容姿をしているのである。
このウンパ・ルンパが、ことあるごとにどこからともなく湧き出てきて、子供達の過失を面白半分に槍玉にあげたような歌を歌いつつ、踊り狂うのである。
これはもう、はっきり言ってツボだった。ウンパ・ルンパが出てくるたびに、笑いすぎて苦しかった。


こんな風に、本作はティム・バートンお得意の、毒の効いた御伽噺の世界を見事に作り出している。
唯一不満だったのは、この物語が最後の最後で単なる父と息子の物語になってしまっていることだろうか。
チョコレート工場を持つウォンカが、チョコレートを愛するあまりに物別れしてしまった父親との確執に悩むのは分かるが、なんとなく最後に無理やり綺麗にまとめた、という感が否めない気がする。
でもまあ、それでも尚、この映画には素晴らしい点があまりあることには変わりないのだが。

ちなみに、本作でチャーリーを演じているのは、「ネヴァーランド」でピーターを演じたフレディ・ハイモアである。
「ネヴァーランド」では、なんと暗い目をした子供なんだろうと思ったのだが、本作ではそんなそぶりはちらりとも見せない。
それどころか、家族を心から愛し、チョコレート工場に憧れる、子供らしい子供にしか見えないのがすごい。
はっきり言って、これまではそれほど子役に感心したことがないのだが(ディカプリオくらい?)、この子には完全にしてやられた感がある。しかも、「してやられた」というほどに、あざといところは全く無いのが更に素晴らしい。
デップとの好対照を再び目に出来るのが、本当に心楽しい。