で、澁澤


で、澁澤のこと。


覚えている限り、ずーーーーっと、澁澤龍彦という作家のことがすきでたまらない。
いわゆる、文字通りの意味で、
アイドル
というやつだ。多分。


今回の札幌旅行にしても、そもそも、芸術の森というところで、「澁澤龍彦幻想美術館」がやるというので、
札幌に行くことにしたのだ。
あまり大声では言えないが、これがサッカー観戦だけだったら行ってないと思う。
なにしろ、札幌旅行を決めたのは、スペインに行く前。
つまり、チーム状態がどん底だった頃なのだ。
間違っても札幌ホームで札幌に勝つとは思えなかった時期なのだ。あはは。


で、澁澤。
札幌に着いた夜、食事をしてぶらぶらホテルへの帰途へ着こうとしていたところ、
ふと見ると、すすき野の真ん中に古本屋があるではないか。
ふらっと入ると、なんとなく、色々ありそうな気配。
胸をきやきやさせつつ本棚を物色していくと、あるはあるは。
三島由紀夫永井荷風
いずれも作家が生きていた時分に出た、旧仮名遣いの美しい本ばかり。

それらに目を奪われつつもさらに進んでいくと、なんと澁澤の本がずらりと並んでいる。
しかも本を開くと、いずれも初版本だ。
その上、「城の中のイギリス人」という翻訳本を開いてみると、
あの丸っこい特徴のある、まさに澁澤の手によるものと人目でわかる署名が入っている。
失神しそうになりながら、舌打ちまでしてしまったその時、
店主の親父が、
晩年の澁澤が署名をする機会を殆ど持たなかったこと、
やむを得ず署名をする場合には、いつも毛筆体だったこと
などを教えてくれた。


旅行中ということもあって、即決を余儀なくされていたわたしは、勿論、即購入。
高い買い物ではあったが、あの紙面で踊るような澁澤の字を見て素通りできるはずもなく、
まさに本に頬ずりをしそうな勢いで抱いて帰ることとなったのである。


ちなみに、その本の親父は、松本仁志によく似た面差しなばかりか、噺家のようなテンポのよさで話を繰り広げる達人だった。
結局、その達人には二時間も店に引き止められてしまい、文学に関する薀蓄ばかりか、白身魚をいかに昆布でしめるか、というような料理の指南までされる始末。
わたしはともかく、連れはおそらく辛かったに違いない。
ほんとうにごめんなさい。
でも、足が痛くなるのも忘れるほど、澁澤の本を手に入れられたのは嬉しかった。
勿論、翌日の展覧会に向けての気分がさらに盛り上がったことは言うまでもなし。