「イン・ザ・カット」★★★☆☆

最近よく映画を観る。殆ど毎日観ているような気すらする。
因みに今日観たのは「イン・ザ・カット」。
ジェーン・カンピオン監督、メグ・ライアン出演。

はっきり言ってしまえば、この映画はこけ脅し以外のなにものでもない。あるいは習作のレベルに堕していると言おうか。
というのは、この映画は犯罪サスペンスの体裁を取っているのだが、結局のところ月並みな「犯罪モノ」の粋を出ていないのだ。主人公の女性(メグ・ライアン)と事件の捜査をしている刑事の関係然り、後に明らかになる連続殺人犯の正体然り。
もっと言えば、主人公が犯人に辿り着くまでのプロセスもありきたりで詰まらない。
え、これだけ?ジェーン・カンピオンなのに?という、期待を裏切られたという思いだけがしこりを残すことになってしまう。

前評判が異様に高かったメグ・ライアンのラブシーンも、評判ほどではないように思う。
あの年齢の女優がああいう場面に挑む、しかもこれまでメグ・ライアンの築いてきたロマンティック・コメディの女王としてのキャリアを考えれば感服ものだが、それにしてもエロティックじゃないことはなはだしい。大体、彼女ほどエロスを感じさせない女優も珍しいので、いくらメグが普段とは雰囲気の違う暗い役柄に徹しようとも、全体としてはあまり成功していないように思うのはわたしだけだろうか。

因みに、この映画を観ていて思い出したのは、A.P.マンディアルグの言う「黒いエロス」だ。
カンピオン映画においては、これまでストイックなエロスが常に存在していたが、今回はそれよりもちょっと開けている。少なくとも、現在の物語であり、主人公がエロスを受け入れようと努力しているという意味においては。
でもエロスの相手はやっぱり父親的、あるいは殺人者的象徴としての男性で、その辺りの世界観は嫌いじゃないのだが、いかんせんサスペンスにしたのが悪かったのだろうか。物語としてはあまりにも平凡に過ぎるのが気にかかる。
それともこの映画自体が、次作への羽ばたきのステップなのだろうか。そう願いたいものですが。