赤ちゃん泥棒 ★★★★☆

Ura2004-09-11


若き日のジョエル・コーエンが撮ったコメディ。
何度も刑務所に出入りを繰り返している泥棒のハイ(ニコラス・ケイジ)と恋人に捨てられたばかりの警察官のエドホリー・ハンター)がなぜか結婚することになる。
新婚時代の生活があまりに愛にあふれていたので、後はもう子供を授かるばかりと思っていた二人だが、妻が不妊症であることがわかり、その後の妻は毎日ふさぎこむばかり。
このままでは二度とあの蜜月の日々は帰ってこないと思っていたところに、テレビで五つ子出産のニュースが流れる。
五人もいるなら一人くらい貰ってもいいじゃないかとばかりに、二人は誘拐することにする。




なんといっても面白いのは、この映画にコーエン映画のコメディ要素がこれでもかというくらい詰め込まれていることである。
そもそも、子供が出来ないなら誘拐してしまえと言うところも可笑しいが、家に子供を連れてきて幸せいっぱい、という雰囲気になった途端に、あちらからドタバタが次々とやってくるのである。
まずは、ハイの刑務所仲間が脱獄して、彼を頼ってくる。
この二人組の脱獄方法って言うのが大体もう爆笑ものなのだが、雨が降ったあとのようなぬかるみになった地面から、突然人間が飛び出してくるのだ。
その様子たるや、まるで海から海坊主が出現してくるようなまがまがしさに溢れている。
とは言え、それは結局のところはただの人間が脱獄しているのに過ぎないのだが。

それから、エドの友人として家に訪ねてくるエドの姉夫婦の存在。
この妻のほうをコーエン作品では常連のフランシス・マクドーマンドが演じているのだが、この人が出てくるだけで画面が華やかになるだけでなく、そこはかとないけたたましさが広がるのだ。
勿論、彼女が演じている役が赤ちゃん好きの母親(しかも派手な!)で、夫のほかに小さな子供ばかり10人くらい引き連れているということもあるだろうが、この人の存在感には圧倒されてしまう。
大体、子供を5人も10人も養子にしながら、赤ん坊の時期を過ぎるとすっかり興味を失ってしまうくせに、ハイたちが誘拐してきた子供を「天使みたい」だからと言う理由で欲しがることとか、どう考えても普通じゃないよなあ。
この監督の作品では良くあることだけれど、一見まっとうな社会生活を送っている人のほうが、よっぽど頭がおかしいということの最たる例のような人物である。


と、ちょっと細部をさらっただけでも、面白細部のような要素がてんこもりなのだが、それに比べると最後はちょっとまとめすぎかなあ。
それと、誘拐された子供を連れ戻しに来る「マンハンター」ことスモールズ(でかいのに!)という、イージーライダーばりのきったない巨漢の男が胸にハイと同じタトゥーを入れている意味も不明。
そもそも、そのタトゥーがウッドペッカーって言うのはもっとわからないし。


とは言え、この映画は現在のコーエン作品の予感をはらんでいるというにはあまりにも面白い作品だし、今でも彼らの映画に見られる要素が既に多く存在している。
今の洗練された作品よりも荒削りなだけ、愉快な箇所も多いとも思える。
コメディー好きの人には結構おすすめ。