The Terminal  ターミナル  ★★★☆☆

Ura2004-12-23



東欧のクラコジアからニューヨークへやって来たビクターは入国寸前というところで入国審査員に止められ、自分の国でクーデターが起こったことを知らされる。いまや戦時下のクラコジアの国民である彼は祖国に帰ることもアメリカに入国することも許されない、いわば法の隙間なるものに陥ってしまう。
勢い、空港のラウンジで状況の変化を待つことを余儀なくされたビクターだが、時間が経つにつれてどんどんとあたらしいことを吸収し、当初はまったく喋れなかった英語を話せるようになるばかりか、恋にまで落ちてしまう。

    • -


素晴らしいコメディアンであるトム・ハンクスが英語のまったく話せない東欧人を演じているというところで、この映画はもうその半分以上の成功を約束されたようなものだと思う。
というのは、この映画の面白さとはつまり、トム・ハンクスの面白さなのであって、映画の前半はそれだけで十分笑い続けることが出来る構成となっているのである。
英語の話せない外国人が子供のような貪欲さと好奇心をもって言葉を学んだり、小銭を稼ぐことを覚えたりするのを見ているのは、ほんとうに心楽しいものだ。
特にビクターという人物がそもそもなぜアメリカにやって来て、なぜそこまでNYに行くことに固執するのかを知らないうちは、物語がよどみなく流れ、それがやがてキャサリンジータ・ジョーンズ演じるアメリアとの恋物語に発展しても、観客は彼を応援する友人のような気持ちでビクターのことを見守ることが出来る。
しかし、話が後半に差し掛かると、尻すぼみとしかいいようのない停滞感が目に付き始める。
それはビクターとアメリカの恋がうまく行ったように見えた頃から徐々に見え隠れし始め、ビクターがついにNYの地に足を踏み入れる頃にはもうすべてがすっかり駄目になっているような感がある。
実際、フランス映画でこれによく似たあらすじの「パリ空港の人々」という映画があるのだが、この映画が実に素晴らしいのは、最後にみんなでバスに乗ってパリ見物をする場面が幸福感と高揚感に満ちた、完全なクライマックスになっているからなのだ。

本来ならば、「ターミナル」もそうあるべきなのだと思う。なぜなら、NYこそはビクターが一年近くも空港で憧れ続けた夢の地なのだから。
ところがこの映画では、ビクターがNYに実際に行く場面はそれほど重要ではなく、祖国に帰ることのほうがよっぽどメインであるかのようなほのめかしをもって終わっているのだ。これはちょっと致命的だ。

とは言え、この映画がコメディアン、トム・ハンクスを満喫できる映画に違いはない。
前半は爆笑の連続だし、微笑ましいエピソードも目白押しだ。
でもなんというか、爪が甘い。
ビクターのアメリカ訪問をあまりにもドラマティックなものにしてしまったが故の失敗と言えるかもしれない。