The Life and Death of Peter Sellers ライフ・イズ・コメディ〜ピーター・セラーズの愛し方 ★★★☆☆

Ura2005-03-27



監督: スティーヴン・ホプキンス 
出演: ジェフリー・ラッシュシャーリーズ・セロンエミリー・ワトソンほか


言わずと知れたピーター・セラーズという偉大な俳優の伝記映画。
彼の代表作である「ピンクパンサー」シリーズは、実はセラーズが好んでやっていた仕事ではなかったことや、家庭における子供じみた振る舞い、そして母親との奇妙な確執などが取り上げられている。
しかしその中でももっとも興味深いのは、ピーター・セラーズという人間が、特別な性格というものを持たない人間、つまり生来の俳優であるという説ではないだろうか。
決まった性格というものを持たないが故に、セラーズは誰にでもなることが出来たし、だからこそ彼は仕事以外のすべての局面で問題を起こし続けたのである。

わたしは個人的にピーター・セラーズファンなので、最初のうちはジェフリー・ラッシュによるセラーズの物真似を堪能し、特にセラーズが飛行機の中で突然クルーゾーになってしまう場面では爆笑してしまった。
なにしろ、その時点でセラーズは「ピンクパンサー」に出演することは決まっていたものの、撮影はまだ始まってすらいないのだ。
しかしセラーズは持ち前のクリエイティヴィティを発揮して、すっかりクルーゾーになりきってしまっているのである。
このジェフリー・ラッシュによるセラーズがいかに本物に似ているかということは、セラーズ出演作を観たことのある人なら誰にでもするわかることであろう。
これにはセラーズファンのわたしでも脱帽だ。

しかしこのセラーズの物真似に慣れてくると、だんだんと映画に牽引力がなくなってくる。
その頃になってくるとセラーズの人生自体が停滞気味になるというのも原因のひとつなのだろうか。
二人目の妻を迎える頃までは面白く観ていられるのだが、彼女と喧嘩別れする頃には話が少しずつだれ始めてくる。
コメディを演じるたびに笑い物にされ、才能を浪費していると感じているセラーズの気持ちはしかし、存分に描かれているというべきなのかもしれない。
観ている者がやりきれなくなるのはおそらく、ピーター・セラーズというすばらしい俳優が無為な生活を送っていたという事実を突きつけられるせいなのだろうか。


この映画を観ていると、ピーター・セラーズがモンスターであったかのような印象を一瞬抱いてしまう。
しかし実生活での彼がどんな人間であったにせよ、どんな問題を抱えていたにせよ、彼が人々の心に残る作品を数多く残したということは間違いなく事実なのである。
彼が単なるコメディアンで終わらなかったことは、セラーズが遺した「チャンス」で証明されている通りである。
この伝記映画は少なくとも、観ている者にセラーズ作品を観かえしたいと思わせるだけの力があるのだろうか。
つまり、セラーズのファン以外にもセラーズを知りたいと思わせることが出来るのだろうか。
セラーズを元ネタとして知らない人は映画を観ていて、もしかして辛いのじゃないかなあとふと思った。