Adolphe (イザベル・アジャーニの惑い) ★★★★★

Ura2005-05-24


監督 ブノワ・ジャコ
出演 イザベル・アジャーニ、スタニスラス・メラール、ジャン・ヤンヌ



バンジャマン・アンリ・コンスタン・ド・ルベックによる18世紀の心理小説「アドルフ」を原作にした本作。
本作を観てのいちばんの感想というのは、心理小説をよく映画化したよな、ということだった。
というのは、おそらく原作は人妻に恋するアドルフの心理を延々と綴ったものに違いないと思うのだが(原作は未読)、映画ではそれをいちいちナレーションで説明するわけには行かないからだ。
しかし、そんなハンデにも関わらず、本作は美しい作品に仕上がっている。
ひとつにはアドルフの恋焦がれる人妻をイザベル・アジャーニに持ってきたこと。
恋にもだえ苦しむ女性を演じさせたらアジャーニの右に出るものは、世界を探してもおそらく一人も見つからないに違いない。
しかも本作は彼女の魅力がもっとも輝くコスチュームプレイだ。
彼女の存在があるからこそ、アドルフの理不尽な感情の揺れがそれほど気にならないのじゃないだろうか。
実際、人妻に恋焦がれるアドルフはやがて幸せな恋人になるが、その後不条理な忍耐と献身を強いられているという被害妄想めいた怒りに悩まされる。
その感情の変化は決して言葉では説明されないが故に、一見不自然に思えるような気がするが、実はその不条理さこそが人間なのだよな、という風に納得できる仕上がりになっている。


アドルフ演じるスタニスラス・メラールも中性的な顔立ちと不思議な雰囲気で好演している。
彼は一見少年のような無垢さを持ちながら、同時に裏切られたような顔をするとき、酷く老成して見える。
そのコントラストをして、彼をアドルフたらしめているのではないだろうか。


ラストは限りなく切なく悲しい終わり方だが、個人的にはハリウッド的にギラギラしたハッピーエンディングよりもずっと好ましかった。
そもそもわたしが18世紀の心理小説がものすごくすきなのだ。
「アドルフ」も近いうちに原作を読みたいと思う。