Dear Frankie(Dearフランキー) ★★★★☆

Ura2005-08-09


監督  ショーナ・アーバック
出演  エミリー・モーティマージェラルド・バトラー、ジョン・ガツェック、ジャック・マケルホーン

難聴という障害を持つ9歳の少年フランキーは母親と祖母との三人暮らし。
しょっちゅう引越しばかりしているのだが、フランキーは行く先々でも楽しみがあった。
それは父親からのエアメールを受け取ること。
フランキーの父は船乗りで家を離れていたが、しょっちゅうフランキーに手紙を書いて寄越し、フランキーもまた返事を書くのがすきだった。
しかしその手紙を書いていたのは実は母親のリジーだった。
ジーはフランキーがまだ赤ん坊だった頃に別れた夫の存在を子供に隠し、かわりに「船乗りの父親」をでっちあげ、定期的に自分でフランキーに手紙を書いていたのだ。
しかし、ある日父親の乗っているとしている船が町に寄港することになった。フランキーは父親に会いたいと手紙に綴るが、母親はその手紙を読んで途方に暮れてしまう。
しかし話を聞いた友人のマリーが、一日だけ父親の役をしてくれる男性を紹介してくれ、彼がフランキーの父親のふりをしてくれることになった。

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普段ならこういう、いかにも「泣いてください」と言わんばかりの映画などパスするところなのだが、この映画はなんとなく気になって見に行くことにしたのだが、ほんとうによく出来た映画だった。
こういう感動させます映画をさらっと地味に描けるところがイギリス映画の良いところだよな、とつくづく思う。
これがハリウッドに行ってしまうと、もうべったべたでやり過ぎというくらい泣き場所を作りまくって、挙句の果てには最後は勿論ハッピーエンディングという感じにしちゃうのだろう。
考えるだけでうんざりしてくるな、しかし。

ところがこの映画は勿論そんなハリウッド的感動映画などとはまったく異なっており、母親の女性としての困惑も悩みも、子供の難聴というハンディキャップも、一緒に暮らしているおばあちゃんが実はタバコを吸ったり酒を飲んだりする以外は何もしてないということも、何の説明もなく通り過ぎてしまうのが本当に良い。
そしてフランキーの前に長い間不在だった父という役柄で現れるThe strangerことジェラルド・バトラーのかっこいいことったら。
ジーの前に初めて姿を見せたときは、仏頂面で早速タバコを吸い始めたり、いやに寡黙だったり、なんとなく怖い雰囲気の人なのだが、この人がだんだんと笑顔を見せ始めると、その青い目に釘付けになってしまう。
しかもこの人がフランキーの難聴をしょっちゅう忘れるのだが、それがまたいい。
一緒に河原で石投げをしている時なども、ちょっとしたコツを教えようと、フランキーに向かって叫ぶのだが、彼の声にまったく反応せずに石を投げ続けるフランキーを見て、「あ、そっか、聴こえないんだった」というような顔をするところなどがチャーミング。
しかもそれが一度じゃないところなど、監督の手腕を感じさせる。長編映画一作目だというのに、末恐ろしいなあ。


フランキーとThe strangerとの心温まる触れ合い以外にも、この映画には色々見所があるのだが、それはたとえばフランキーの本当の父親の存在など。
詳しく話すとネタバレになるので割愛するが、ああ、こういう人っているよねえ、と、映画を見た帰り道、連れと話し込んでしまった。


因みにエンディングはハッピーエンディングのような体裁なのだが、ハリウッド的に大団円という感じではないのがまた良かった。
ちょっと唐突な感じもするが、それはそれでいいのかなという気がする。
なにしろフランキーはまだ9歳で、行く手にはまだまだ長い人生が待ち受けているのだから、多分こんなものでいいのだ。