「ナラタージュ」  島本理生


またもや誰がどういう意図で買ったのかわからないが、家にあったので読んでみたという本。
この著者のほかの作品は一切読んだことがないし、本作を読んだ今、この先も読まないであろうことは確実。あは。


ところでこの作品。一言で言うならば、「拙い」。
最初の場面で主人公の女の子が結婚することになっている男性と新居を見に行くのだが、二人の描写を延々したあとで、「わたし達は仲が良い」と続くのである。
もうこれだけで十分ではないか。
結婚することになっている二人を指して「わたし達は仲が良い」と説明するあたり、はっきり言って想像力と語彙の欠如としか思えない。
勿論、この二人には色々な「ヒストリー」があって、女の子のほうは嘗てものすごく好きだった人がおり、他の人と結婚することになった今でも、その人を忘れることが出来ない、などという経緯がある。
あるんだが、それにしても、やっぱりおかしな一言ではないか。
この一言ですっかり鼻白みながらも一応読み終えたのだが、うーん、やっぱりまだまだ甘い作品だなあという感想は変わらない。
物語が時間的にいちいち前後する構成も意図が良く分からないし、意図はさておいても、効果のほうもいまいち。
そしてもっとも気にかかったのは、大学生である主人公の女の子が高校時代の先生に対して「あなた」と呼びかけることだ。
二人の関係が恋愛関係のように密接で親しいということを込みにしても、10歳以上年上の、しかも嘗て教わっていた人に対して「あなた」と呼ぶかなあ?大いに違和感があって気持ち悪かった。


しかし良い点もないわけではない。
大学生になった演劇部の卒業生たちと現役の演劇部員が集まって演劇をやるところなどは、人物間の関係が上手く描けていると思う。
特に主人公の友人である美人の大学生などは、その辺に存在していそうなくらいリアルで面白かった。
よくいるではないか、顔は綺麗だけど変わった人って。
着ている服装などもいかにもという感じ(今時体にぴったりしたロングスカートなど、こういうタイプの人しか着ない!)だし、言動もイメージにぴったりだ。
多分、著者はこういう人たちをよく知っているんだろうなと思わせた。
この人物描写のほかにも、学校を舞台にしているあたりは比較的良かった。
主人公の理屈ではない感情の揺れなどにしても、本当にさらっと、しかしリアル(っていやな言葉だなあ)に書けていて、さすが最近まで高校生だっただけあるなあと思ったし。
でもはっきり言って、部分部分での良い点がどれほどあったところで、この作品が完成には程遠いことは否めない。

但しまだ若い作家だし、多分これから本人が成長するとともに文章も変わっていくのかなあとは思う。乞うご期待?


ナラタージュ

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