奇談 ★★★★☆

Ura2005-11-21


監督/ 脚本: 小松隆志
出演: 藤澤恵麻阿部寛、ちすん、柳ユーレイ、神戸浩、菅原大吉 

子供の頃に神隠しに会った大学院生 佐伯里美。しかし彼女にはその頃の記憶がない。
失われた記憶を求めて東北の「隠れキリシタンの里」を訪ねた彼女は異端の考古学者・稗田礼二郎と出会う。
村人がひた隠しにする謎を追うにつれて、次々に明らかになる驚異の真実。
全てが解き明かされるとき、彼らは想像を絶する「奇蹟」を目撃する…!

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うわー、観に行ってしまった、「奇談」。
浅学で恥ずかしい限りだが、原作である漫画「生命の木」は無論、原作者である諸星大二郎のこともまったく知らず、阿部寛が出ているという事実とポスターの雰囲気からして、おそらく「血を吸う宇宙」みたいな面白映画であろうとあたりをつけていたのだが、微妙に違った。
微妙に、というのは、物語の雰囲気やトーンという点からすると、あんな思い切った馬鹿映画とは完全に異なるのだが、十字架に磔になった死体が異様に人形っぽくてそれほど目をそむけたくはならない、というような些事においては、恐ろしく酷似しているような気がする。
しかし、この映画の素晴らしさの根底にあるのは、緻密で不思議な物語の面白さで、そもそも隠れキリシタンが明治どころか現代(1970年代)まで存在し、しかも秘密裏に信仰を伝えている過程で教義がカトリックから大きく外れたばかりか、別の聖書まで作り出してしまうというのだから興味津々である。
しかも、隠れキリシタンの里である「はなれ」について調べる考古学者を阿部寛が、そして自らもかつて神隠しに会い、そのころの記憶をすべて失ってしまった学生を佐伯里美がやっているというのが絶妙な組み合わせである。
佐伯里美というのは因みに、NHK朝の連続ドラマ「天花」で主役を演じた子だが、当時宮城県郡部に住む田舎娘を演じているのを見、なんて田舎臭い子なんだろうと思ったものだが(一度しか観たことないのにね)、今回もまさに70年代を体現したような容姿と空気を醸し出していて、こういう昭和っぽい雰囲気の子ってほかにはいないよな、と思わせられた。
そして、異様としか言いようのない圧倒的な存在感の阿部寛と並べると、妙にいいコントラストをなしていたのも良かった。

物語の性質上、これ以上いろんなことを話せないのがつらいが、劇場まで足を運ぶに足る、良い映画であることは間違いない。


なんか、こんな絶対に一般受けしそうもないが、しかし素晴らしい映画を観ると、日本映画はやるなあという思いでいっぱいになる上、こういう映画をもっと国外に紹介すべきだと思う。
どうか、誰かやってくださいよ。
って、もうやってるのか。