ぼくのともだち

「ぼくのともだち」という本を読んだ。
作中の「ぼく」は戦争に行ったことで年金を貰って暮らしているという青年である。
彼は仕事をせず、友達もいず、ただただ毎日、愛されたい、自分を見てもらいたいと思って暮らしている。
しかし、友達はなかなか出来ない。
時折、あたらしい人々と知り合っても、彼の接近の仕方は至って不器用で、あまりにも下手に出ているので、ともすると友情をちらつかされてお金を貸してくれと頼まれたりする。
つまり、
利用されてしまうことすらあるのだ。

その「ぼく」の姿はあまりにも悲しい。
悲しいのだが、
しかし
そこはかとなく漂うおかしさが、この小説をユニークたらしめている。

「ぼく」が愛されたいと願う、その必死な姿を、相手に気に入られようとしてやりすぎる彼を、ちょっと斜に見ているような視線。
それこそがこの小説のエスプリなのだ。

おそらく、誰もが愛されたいと願い、誰もが友人やあたらしく知り合った人に気に入られたいと願っている。
その誰もが抱えている願いを、まあるく切り取った形で提示してくれたのが、この作品ではないだろうか。
その願いを目の前につきつけられると、
ちょっと切なくて、ちょっと滑稽で、なにか、すがすがしいような気持ちになるのだ。


さて、
「ぼく」は「ともだち」を見つけられたんだろうか。



ぼくのともだち

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