ミステリーというのはどうも・・・

東野圭吾がようやく直木賞を取ったらしい。
というようなことは、いろいろなところで見聞きする。
しかし、実際のところ、そんなことを言われても、この作家の作品は一冊も読んだことがなかったため、意見を言おうにも言えなかったわけだ。
そんなある日。
電車に長い時間乗るので、そのための本を一冊買おうと本屋に立ち寄った折、どうもちょうど良さそうな本が見つからないので、購入することにしたのがこの本だ。

容疑者Xの献身

大して深く考えもせずに買い、早速読み始めたのだが、うーむ。
確かに物語自体に牽引力はあるし、構成も面白い。
容疑者となる男と、学生時代の古い友人との対立という構図も興味深い。
しかもこの対立する二人が、決して自ら望んでその立場に立っているわけではなく、一方は献身から、もう一方は純粋に知的好奇心から、そうならざるを得なかったというのもうまいな、と思わされる。

とは言え、個人的好みからいうと、どうも軽すぎる読み口という気がしないでもない。
そもそもわたしは、ミステリーというものにそれほど興味を覚えるたちではないので、そんな人間がこの本を手にしたこと自体が間違いなのかもしれないのだ。
しかし、まあ、電車に乗っている時間を楽しむには十分な読書というのが公平な意見だろうと思う。


容疑者Xの献身

容疑者Xの献身

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この「待ち合わせ」というフランス人作家による作品のほうは、軽いながらも洒脱で、とても楽しく読むことが出来た一冊だ。
こちらも、この作家の作品を読むのは初めてだったのだが、なにか、この作家の作品は、この先もあるいは手にとってみたくなるかもしれないというような、素敵な予感を感じさせる作品だった。

第一、 物語のテーマが「妄想」というのからして、そそられるではないか。
主人公は別れた恋人と待ち合わせをするのだが、この待ち合わせということがそもそも妄想なのだ。
彼は恋人と別れたあとに引っ越した、一人住まいのアパルトマンに帰るの嫌さのため、恋人を待ち続ける。
しかも、恋人は来ないとわかっている。
なぜなら、待ち合わせはしていないのだ。
待ち合わせの場所も時間も、その時々に自分でふと決めているだけで、彼女はそのことをまったく知る由がない。
というか、そもそも彼女が彼のことをたまに思い出してみることがあるかどうかさえ、怪しいものだ。

そんな日々を送っていると、
ある日、幼馴染から電話がかかってくる。
聞けば、この男もまた、人を待つ暮らしをしているというではないか。
彼の場合は、奥さんがある日突然家を出て行ってしまい、その後戻ってこないというのだ。
そこで主人公は、一人で別れた恋人を待つのをやめ、友人と一緒に友人の奥さんを待つことにする。
実はここから本当の物語が始まるのだ。


この別れた恋人と勝手に待ち合わせをするという、一見するとストーカーじみた行為も、彼が頭の中で繰り広げる壮大な冒険もすべて、なんとなく滑稽で愛らしく、それがゆえに本作はとても軽やかで素敵な仕上がりになっている。
この作品を読むと、「待つ」という恐ろしく憂鬱な行為も、これからはなんとなしに愉快な気持ちですることが出来るかもしれない、というような楽天的な気になってくる。
ま、出来るわけはないのだが、少なくとも、そんな気がちっとはするではないか。


待ち合わせ (Modern&Classic)

待ち合わせ (Modern&Classic)