ANGEL.A (アンジェラ)

Ura2006-06-01


リュック・ベッソンの最新作である本作を観てきた。
物語は、ある日あちらこちらで作った借金が膨れ上がり、にっちもさっちも行かなくなった男がどうしようもなくなってセーヌに飛び込もうとするところから始まる。
神を呪い、さあ飛び込もうかとふと横を見ると、同じように飛び込もうとしている、こちらは長身、金髪の美女。
彼女が自分より先にさっさと川に飛び込んでしまったものだから、後を追わざるを得なくなり、自分も飛び込んで彼女を助ける羽目になるが、川から上がって気がつけば命はあるものの、借金もどうにもならない状況も何も変わっていない。
ああ、どうしてくれようと女に八つ当たりすると、女は言う。
Je suis a vous わたしはあなたのもの。
そして彼女は窮地にいた彼を救うべく暴力と知恵と慈愛に満ちた行動に出る。



まず冒頭からやられてしまった。
そもそも、ジャメル・ドゥブーズがスクリーンに出てくるだけで個人的には面白いのだが、チンピラ三人に囲まれてへどもどする彼の姿はもう秀逸。立っているだけで、あれだけ笑える俳優って、ほかにいるだろか(生きているフランス人で)。
そして、対するチンピラのほうも、そこはベッソン。心得たもので、口をついて出るセリフがいちいち小ジャレているのだ。
周囲を見ても、ほかに笑っている人は誰もいなかったが、もうあのチンピラに囲まれる場面から釘付けになってしまった。
やっぱりフランス映画はセリフで勝負だよ、と、改めて思わされた。


そして、アンジェラ演じるグッチガールのリー・ラスムッセン
彼女はどうやらデンマーク出身らしいが、かつてのナジャを彷彿とさせるクール・ビューティーと、それと好対照をなす舌ったらずな外国語訛りのフランス語が魅惑的だった。
そもそも天使というのはアンドロギュヌスなので、ああいう人間離れしたクール・ビューティーをキャスティングするあたりが、ベッソンベッソンたるゆえんなのかなと思わせられる。
まあ、こんなところで今更センスのよさを云々されるのはどうかと、本人は思うだろうが。
それにしても、凶暴な天使という天使の解釈が、ほんとうに良かった。
平気で人間を殴りまくるあたりは、天使かくあるべしとう感じで、すっかりときめいてしまった。


そして、作品に時折挿入される自己パロディにも、にやりとしてしまった。
「レオン」で、マチルダに対して色々レオンが言うくだりで、マチルダがそれに応えていちいち「OK」と言うのだが、それを聞いて苛立ったレオンが、「OKっていうのはやめろ」と言うのだ。勿論、それに対してマチルダは、一瞬黙ったあとに「OK」と返すのだが、このやり取りが今回アンジェラとアンドレの間でも交わされていて、観ている側はついついにやついてしまう瞬間だったのじゃないかと思う。


とにかく、この作品は終始、観ている人を意識した作りになっていて、こういう洒落のわかるベッソンがわたしは好きだなあと思った。
そりゃ、この「アンジェラ」と言う作品はそれほどたいした作品じゃないけれど、監督の意図するところはよくわかるし、そのメッセージを伝えるための方法論を十分に取っていると思う。
しかし、そういうことをすべて鑑みても尚、あのラストはどうなのかなと思う。
個人的には、アンジェラの目が突然黄色(白黒だけど、なぜか黄色だとわかるのです)になり、羽根が背中からばりばり生えてくる場面は、天使の凶暴性を目撃できて得したような気分にもなったし良かったのだが、そのあとはなんというか、ホラー映画にぬいぐるみの怪獣的お化けが出てきてしまったときのような薄ら寒さを覚えてしまったと言うほかない。
はっきり言って、あれで、その直前の感動が全部帳消し。
あの「人魚姫」めいたエンディングは美しいと言えば美しいが(しかも天使が「クソっ」っていうのが個人的にツボ)、その前にぬいぐるみショーみたいな場面が挿入されているのが、どうにもいただけない。
あそこさえなければ、この作品はもっと美しい御伽噺的印象を保てたのじゃないかと思って、ちょっと惜しい。
でもまあ、終了間際にスクリーンで観られて良かったと思う。
そしてわたしのベッソンのベスト作品は未だに「サブウェイ」だな、ということを確認できて良かった。
かな。