イタロ・カルヴィーノ著「宿命の交わる城」読了。
並べられたタロットの札が交錯するのにインスピレーションを受けたような、それぞれに交錯する物語集。
物語はそれぞれ誰でもが知っているような古典や神話を下敷きにしたパロディのようなものが多いが、それだけに親しみ深い話がタロットの札を通して語りかけてくるのが新鮮に感じられる。
物語はそれぞれ、タロットの札をキーワードのようにして展開していく。愚かな行いをしてしまった者には「愚者」のカードを、若者には「剣」をと言った具合だ。
そもそも語り部が登場人物自身ではなく、森の奥の城でたまたま一晩を一緒に過ごすことになった彼らがどういうわけか全員、食卓につくや口がきけなくなってしまうのだが、各々が順番に出すタロットの札を見て、それ以外の者たちが彼、あるいは彼女の物語を推察するというのが面白い着想ではないか。
つまり、その幾つもの物語でさえもが、作者(として登場する人物)の単なる推測の域を出ないこしらえごとなのかもしれないのだ。その辺の入れ子構造が面白い。なにしろ、小説と言うのは要するに、作者のでっちあげた物語に過ぎないと言えばそうなのだから。


吉本隆明・出口裕行著「都市とエロス」読了。
吉本隆明と出口裕行がさまざまなことについて対話を繰り広げている対談集。
話のテーマは出口の小説のテーマである、「都市と女」に始まり、フーコードゥルーズまで広がり、面白いことこの上ない。
特に面白いのは、出口の小説家としての傾向や素質を吉本に言い当てられるくだりだろうか。
小説家と言うのは往々にして自分の傾向や特質に気づかずに作品を物している場合が多いのだけれど、この場合も然り。
もっとも、出口裕行という人をして「小説家」と言うのかどうかはまた別の問題とするにしても。

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