A Box of Matches

ニコルソン・ベイカー著「A Box of Matches」読了。

相変わらず変質的な物語構成が面白い。
毎日毎日起きる時間がどんどん早くなっていく男が起きるたびにリビングの暖炉に火をくべながら、いろんな思索に耽る(それが思索と呼べるような高尚なものかは疑問だが)だけの話で、登場人物は彼一人。
つまり、全編が完全なモノローグなのだが、ベイカーの描く主人公が往々にしてそうであるように、この作品の主人公もかなり偏執的な傾向があって、その性格がどのようにして形成されたのか、というようなことにも触れられている。
人生においてしばしば黙殺されがちな超細部ばかりがクローズ・アップされており、他の小説家の作品ではまず語られないようなことばかりが延々と述べられるが、それがむしろ読み手をして、彼(あるいは彼女)の人生の細部に目を向けさせる力を持っているとも言えるかもしれない。
少なくとも、この本を読んだ人は今後、家の中で蜘蛛を見つけても殺さずに家の外に逃がしてやるようになるかもしれないし。