最近読了した本など


「闘争領域の拡大」  ミシェル・ウエルベック

随分前から気になっていたミシェル・ウエルベックの処女作である「闘争〜」を読めたのは大きな収穫だった。緻密で論理的な思考とポエジーが同居しているところが美しくて印象的。
主人公の思考傾向がどんどん暴力性を帯びていくくだりなどもいやにリアルで(リアルということが何の意味も持たないにしても)引き込まれる。

多分次は同著者の「プラットフォーム」を読んでしまうと思う。
最近フランス文学で面白い本がなくて退屈していたところなのだ。面白そうな作家を発見して(遅すぎるけど)嬉しい。

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「逃げ道」  フランソワーズ・サガン

サガン小説でよく見られる浮薄な恋愛、上流社会での奸計とエスプリ、諦念の形をした絶望、といったものがこの作品ではあまり出てこない。それだけでも彼女の作品にしては異色じゃないだろうか。
舞台は第二次世界大戦中、フランスがドイツ軍の占領を受ける頃なのだが、パリからアメリカへ逃げる途中の男女四人の道中でのハプニングを描いている。
パリの社交界しか知らなかった四人が突然農家での刈り入れや家事やなんかをするに至るばかりか、それを愛しいとさえ思うようになる変化は、ドラマティックなだけに滑稽で微笑ましくもあり、戦時下の悲壮感などとは完全に一線を画している。
それだけに最後にやってくる「ハプニング」はあまりにも唐突で圧倒的だ。
この本を読んで、サガンの才能はなにも「悲しみよ、こんにちは」だけで発揮されたわけじゃないのだな、と今更ながら思い知った。

ちなみに、朝吹登美子訳以外でサガンを読んだのは初めてだった。

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「溺れる市民」  島田雅彦

タイトル通り、欲望に「溺れる市民」を描いた短編集。
歪んだ欲望を描かせたらこの人の右に出る者はいないと思われる作家、島田雅彦
普段はその端正な容姿が才能の楔になっているなあと思うにつけ、身体性について思いをはせることが多いが、こういう一般人の隠された欲望を書かせると、この作家は途端に輝きだすから不思議だ。
でも要するに、わたしがこの人をこんなに愛読しているのも、そういう理由からなのだろう。
身体性が高いということは、本人にとっては結構なハンディだと思うのです。