アメリカの友人


パトリシア・ハイスミスの本を読み返している。
昨日読んだのは「アメリカの友人」。
ハイスミスの本は映画の原作になることも多く、いちばん有名なのはアラン・ドロン主演の「太陽がいっぱい」だが、本書もヴィム・ベンダースによって映画化されている。


ハイスミス作品が面白いのは、犯罪が絡んだときの人間の心理をあますことなく、殆ど残酷なまでの緻密な観察力でもって描いているからである。
彼女の作品は殆ど犯罪に絡む話を描いているのだが、大方の小説のように読者が推理するような余地はまったくない。
犯罪に手を染める人間は最初からわかっているし、彼あるいは彼女がどういう経緯で犯罪を行うに至ったのかも詳しく描かれる。
だからこそ、彼女の話は面白いのだ。
窮地に陥ったときの人間の振舞いよう、決断の仕方が、実にリアルに描写されている。
そしてわたしがもっとも気に入っているのは、その作風が勧善懲悪というものからほど遠い作者のスタンスに基づいているということである。
小説家にとっては犯罪者だから逮捕されるべきだとか、人類の敵だとかいう意見は殆ど存在にしないに等しく、魅力的で頭のキレる人間ならば、たまたま犯罪を犯すことがあっても警察に捕まるとは限らないし、素晴らしく充実した人生を送ることだってありうるという態度なのだ。
つまり、それが彼女お気に入りのキャラクターであるトム・リプリー(「太陽がいっぱい」ほかの主人公)に対する視線とも言える。
とにかく、スリリングでページを繰る手が止まらなくなる素敵な作品を書く小説家である。



アメリカの友人 (河出文庫)

アメリカの友人 (河出文庫)