レオノール・フィニ展


数ヶ月ぶりに会う友人と渋谷でお昼を一緒に食べた。
とはいえ、友人はそのまま仕事場に直行しなければならなかったので、その辺のホテルのレストランに入って食べた。
選んだのは、ロコモコにソウキソバがついているという、摩訶不思議なメニュー。
しかも出てきてみると、ロコモコのご飯の部分はどう見ても(食べても)チャーハンだし、ロコモコの肉はハンバーグであるべきなのにステーキになっている。
そんなわけの分からない、中途半端に創作が介入した料理なのだが、食べてみると結構おいしくてまたびっくりした。
世の中って謎に満ちているなあ。

それにソウキソバとロコモコという組み合わせは多すぎる。
結局三分の二も食べられなかったよ。


友人と別れた後は、一人でBUNKAMURAにてレオノール・フィニ展を見た。
フィニといえば、仮面、そしてマンディアルグ
彼女の作品にはずいぶん以前から親しんできたような気持ちでいたが、考えてみると、彼女の絵をまとめてたくさん見るのは初めてのことなのかも。
というか、本物の絵を見たのすら初めてなのかも。


その初めて見たフィニの絵は素晴らしかった。
わたしが特に好きだったのは、パステル色をふんだんに使っている時代で、この頃彼女はコルシカに住んでいて南国の花々の色にインスピレーションを受けたということなのだが、なるほど、心なしかふんわりとした幸福感のようなものがまとわりついている絵が多かった。
とはいえ、そこはレオノール・フィニ
屏風に女の一生を描いた、少しクリムトを思わせるような作品も、ひっくり返してみると、そこには骸骨になった女たちの姿が描かれている。
それがなんと「メタモルフォーゼ・フマル(女の変身)」(だったと思う)というタイトルなのだから、見ているこちらもついにやりとしたくなってしまった。


絵以外にはレオノール・フィニ本人の自己演出の徹底振りに舌を巻いた。
おそらく謝肉祭の頃なのだろう、ヴェネチアのゴンドラの上で、大きな黒い鳥を思わせるような羽を背中につけ、胸ぐりのあいた黒いドレス(白黒写真だけれど、絶対に黒いとなぜかわかる)をまとったフィニのたたずまいときたら、なんと美しいことだろう。
そしてそれ以上に、愛するペルシア猫を胸に抱き、鳥の羽で飾られたマスカレード用の仮面をかぶっている彼女はエキゾシズムそのものだった。
「O嬢」の第二部を思い出すまでもなく、仮面の呪物性を見せ付けられる思いだった。


帰りはマンディアルグ作のフィニについての本と、かつてダリが愛したという女性による、ダリとの生活について書いた本を買って帰る。