ぼくのプレミア・ライフ


本書は幼い頃、奇しくもアーセナルファンになってしまい、その後、単なる「ファン」ではなく「熱狂的なファン」になってしまった作者の悲しくも滑稽、かつ愛すべきサッカーとアーセナルに対する愛の告白である。
おそらく特定のチームサポーターなら誰しも抱いているであろう、あの馬鹿馬鹿しくも壮大で、同時に矮小な自分のチームに対する愛情。
そして、自分のチームの試合を観にいくためならば、どんな犠牲もいとわず、どんなスケジュール変更も嬉々として行ってしまう。
ああ、サポーターというのは、なんと愚かな存在なのだろう。
まったく、自分の身を省みて愕然とさせられる本である。


しかしだ。
自分の愚かさを見せ付けられると同時にまた、本書はわたしがこれまで味わってきた夢のような時間を追体験させてくれる。
わたしのように、サポーターになって以来、贔屓のチームがJ1からJ2に降格し、一年で復帰出来ると信じていたのに、監督が勝手に解任され、それでも勝てるならばと受け入れた知将と呼ばれた監督のことはフロントが勝手に追い出し、その代わりにフロントが連れてきたのはなんと素人。
その素人に散々チームをかき回され、挙句の果てには愛する選手達の首を続々切られ。
そんな目に遭いながらも、それでもサッカーなしではおそらくめぐり合えなかったような素晴らしい瞬間が幾つもあって、そのことを考えるだけで幸せな気持ちになれるほどなのだ。


サッカーを愛し、チームを愛している人なら、きっと誰が読んでも自分のことを見ているかのような錯覚に陥るだろうと思う。
唯一信じられないのは、ついちょっと前にレアルマドリッドを下したあのアーセナルが、作者の子供時代から91年までは、イングランドで嫌われもののチームだったということくらいだろうか。
そして、アーセナルのサポーターもまた、煙たがられる存在だったのだという。
ベンゲルとアンリのいるアーセナルしか見たことのないわたしにとっては、ちょっと耳(目?)を疑う話である。


ぼくのプレミア・ライフ (新潮文庫)

ぼくのプレミア・ライフ (新潮文庫)